レポート

私が選んだのは、日本の原風景が残る町。子どもは地域の宝物(後編)

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ワクワクしている大人を見て、子どもたちは育つ。
ものを作って売り、お金を得る。お客さんの声を聞いて、もっと良いものを作る。
大きな会社やお店は少ないけれど、
五城目には「0から仕事を生み出すエネルギー」が子どもたちの周りに溢れている。

「なんでこんな不便な場所に!」長男と意見がぶつかることも

のびのびと子育てができる環境を求めて、2016年に秋田県五城目町に家族で移住した竹内治子さん。

4児の母である治子さんは、子育ての助け合いの場として「んなのいえ」を立ち上げました。

前編はこちら。

山の中に大きな一軒家を借りて、大人2人、子ども4人、犬と猫の2匹の大家族で暮らし始めた竹内一家。

夏になると緑の苔が庭一面を覆い、冬には、子どもたちが割った薪をストーブにくべる。

──山に田んぼに川……五城目は自然環境が豊かだから、都会ではできない遊びができそうですね。

うちの子どもたちは山に入って木登りをしたり、山菜採りをしたり、五城目の自然の中で思い切り遊んでいますね。

山で獲れたイノシシをもらって、庭で丸焼きにして食べたり。薪割りもやりますよ〜。

──なんてたくましい……。

子どもたちには自分で生きる力をつけてほしいなと思うんです。

自然の中に入って材料を手に入れたり、自分で育てたり。

そういう経験を小さい時に少しでも知っていれば、大人になった時に自分で何かを生み出すヒントになるんじゃないかな。

親としてはそういう思いを持っているけれど、子どもと意見がぶつかることもあります。中学生の長男は、親よりも友達と一緒にいたい年頃のようです。

住んでいる場所が五城目の奥地ということもあり、車がなければ友達の家にも市街地にも遊びに行くことができないので「なんでこんな不便な場所に引っ越してきたんだよ」と不満をもらすことも。

小学生の頃は五城目の暮らしを思い切り楽しんでいたのですが……。長男は鎌倉での生活も覚えているので、都会の便利さもよく分かっているんでしょう。

とは言え、今でも外遊びを始めれば弟たちと一緒に木登りや川遊びを始めて、野山をかけまわっています(笑)。五城目に来てからの経験や、鎌倉の自主保育で遊んだ時のことを体が覚えているのだと思います。

そして、町部にある「んなのいえ」を活用することで、奥地の暮らしの不便さをカバーできたらいいなと思っています。

──それはリアルなエピソードですね。親の願いと、子どもが求めるものの違い。

何もない不便な場所、というイメージがあるかもしれないけど、今の五城目は自然環境以外にもたくさんの資源があります。

国内だけでなく、海外からも色んな大人が集まってきて色々な事業がスタートしているので、求めようによっては国境を越えて海外にも羽ばたきやすい場所だと思っています。

私も移住してきた当初は、人と関わることが減ってしまうのでは?と少し心配していたのですが、実際は違いました。五城目に来てから、海外の方と触れ合う機会がとても多く、2年間で5カ国以上の方と交流しました。

そして、視察や研究で訪れる大人や大学生が非常に多いため、学ぼうとしている人たちがごく自然に身の回りにいるんです。

長男が大人になった時に、この町で暮らして得たものに気づけたらいいなあ。

自分で物を作って売ることが当たり前の町

──五城目町には、500年前から続く朝市の文化も残っているんですよね。

自分で作った物を売るという習慣が根付いているんですよね。

通常の朝市は0、2、5、7がつく日に開催され、そのうちの日曜日は「朝市プラス」と呼ばれるちょっと特別な朝市が開催されます。

この日は若者や子どもたち、町外の人も出店することができるんです。出店料は町内の人なら110円。自分で作った雑貨などを並べて、お客さんに営業して……という貴重な経験ができます。

──出店料もリーズナブルなんですね。東京のフリーマケットだったら、数千円くらい出店料をとられるのに。

そうなんです。だから子どもたちやママたちも物を売りやすい環境なんです。

企業や作家じゃなければ物を売ってはいけないということではないので、商売をするハードルが低いのでしょうね。

──お店屋さんごっこではできない、本物の金銭のやりとりを体験できるんですね。

五城目の子どもたちにとって商売は身近なものです。職人の町なので、大人たちも子どもたちが商売をすることに対しておおらかです。

以前、大人たちの集まりがあった時、傍でワヤワヤと遊んでいた子どもたちが折り紙の作品を売りにきたことがあって。

すると、みんな面白がって「もっとこうしたら買うんだけどなあ。相手のニーズを求めて作らなきゃ」とか「客のニーズに寄り過ぎちゃだめだよ」とか、それぞれの立場からアドバイスをして(笑)。

かなり本格的なマーケティングを、町の大人たちから学んでいました。

──楽しそうですね(笑)。

みんな自分で仕事を作る感覚があるので、それを身近に楽しく学べるのは素敵なことだなと思っています。

大学に行って企業に就職する……という選択肢以外にも、自分で仕事を作っていく選択ができることを、五城目で暮らしていれば自然と知ることができるので。

──まさに「自分で生きるための力」を身につけられる場所なのでは。

三男と将来の夢の話をした時に、

「朝は漁師の仕事をして魚を釣って、お昼は釣った魚を料理してお弁当屋さんをやって、夜はサッカーの練習をする」

具体的な将来像を語っていました。警察官とか看護師とか単純な職業の話にとどまらず、暮らし方までリアルに想像できるのは、周りの大人たちの影響のような気がします。

100年先の子どもたちへ届け。五城目に集まるワクワクした大人たち

「五城目にはワクワクした大人がたくさんいるのよね」と語る治子さん。

現在、五城目には熱意を持った人たちが全国から集まり、地域おこしに携わっています。

廃校になった小学校を活用した「BABAME BASE」は、五城目町の地域活性化支援センター。起業やコミュニティ活動を支援する場所として2013年に開設されました。治子さんの夫・健二さんが代表を務める株式会社ラウンドテーブルも「BABAME BASE」に入居し、オフィスとして活用しています。

朝市通りにある「ただのあそび場」は、遊休施設を町のみんなでリノベーションして作った遊び場。学校帰りの子どもも、学校へ行かない子どもも、町の大人も、誰もが自由に訪れて自由に過ごせる場所になっています。

「ただのあそび場」に集まる五城目の若者たちにも慕われている治子さん。お互いに困ったことがあれば助け合える心強い関係。

築135年の茅葺古民家を一つの村に見立て、年貢(会費)を納めた「村民」が宿泊したりイベントを楽しんだりするユニークなプロジェクト「シェアビレッジ」。秋田の郷土料理体験もできます。<写真右:家守の半田理人さん>

 

高齢化、少子化が進む町で、ワクワクしている大人が多いのはなぜか。

その答えの一つが、五城目町の若者たちを鼓舞する「よざえもんさん」こと畑澤與左右衛門さんの存在なのかもしれません。

農林業を生業としているよざえもんさんは、農業生産法人アグリを経営し、五城目の原風景を将来の子どもたちに残すための様々な活動を行っています。

よざえもんさん:どんどん年寄りが増えて子どもが減っていく町に夢はないと思っていたけれど、「五城目が好きだ」と言って移住してくる若者たちがいた。

こうしちゃいられない!と思ったんだよ。尻に火がついたね。

私の息子たちは林業も農業もやらずに五城目を出て行ったしまった。

魅力ある林業。魅力ある農業。もしも「魅力」があったら五城目に残ってくれたのかもしれない。

何十年も悶々としながら仕事をしてきたけど、一人では何もできない。そんなタイミングで、五城目に魅力を感じてやってきたみんなに出会ってしまったんだよ。治子さんもその一人だね。

自分の子育てはなかなか思うようにいかないこともあったけど、俺の時代でなんとか子育てできる雰囲気だけでも作りたい。

この豊かな土地と景色を、100年先の子どもたちにも残したいと思っているんだ。

こんな小さな子たちがさ、うちで作った野菜を食べて「これ美味しい!」なんて言ってくれたらさ、嬉しくて嬉しくて。

もうやるしかないんだよ。

実は、「んなのいえ」のために空き家を貸してくれたのは、よざえもんさんの幼馴染でした。「五城目のためになるなら、うちでやりなさい」と温かい声をかけてくださったそうです。

次の目標は産前産後ケアハウスを作ること!

──最後にお聞きしたいのですが、治子さんはこれからも五城目で子育てをしていきたいと思っていますか。

はい。そのつもりです。実はわたし、まだやりたいことがあって。自分の手で五城目に家を建てて、産前産後ケアハウスを作りたいの。

──え!「んなのいえ」がゴールではないんですね。

産前産後のいちばん辛い時期に、事情があって実家に帰れない人もいるじゃないですか。そういう方たちがホッとできる場所がここにあったらいいなと思って。産んだ後も、実家みたいにいつでも五城目へ里帰りしてくれたら嬉しいです。

──しかも自分の手で家を作るんですか。

そうなんです(笑)。地域の方に助けてもらいながら作ろうと思っています、自分だけじゃできないことをみんなでやりたいと思っているし、その気風が五城目にはあります。農作物や服を自分の手で作れるようになったら、次は家かなと思って。家を自分で作れるようになったら、すごく心強いと思うんです。

我が子じゃなくても自分の子ども。

そんな子育てが当たり前にできる場所で、これからも新たな事業にチャレンジしていくと語る治子さん。

血のつながりを超えた大きな家族が、五城目町を中心に広がっていきそうです。

 

「んなのいえ」
住所:秋田県南秋田郡五城目町字稲荷前60
営業時間:11:30-17:00
定休日:不定休(Facebookをご確認ください)
利用料:のんびり1日券…300円/のんびり会員(フリーパス)…3,000円/1ヶ月/おしごと会員…3,000円/1ヶ月
レンタルスペース:講座やランチ会などにお使いいただけます。1時間300円〜

詳しくはFacebookでお問い合わせください。

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