都内に本社を置くIT関連企業のA社(従業員数約4000人)は、正社員女性の15%以上が育児中の時短勤務社員。時短勤務を卒業した育児中の社員も合わせると、正社員女性の20%に達します。
仕事と育児の両立支援制度が充実し、社員の制度利用も浸透しているA社ですが、復帰後の両立について不安を感じる声も多くあったそう。
そうした声に応え、A社では職場復帰直前の社員に向けて「育休復帰前説明会」を実施しました。
当日の様子をレポートします。
「育休復帰者支援プロジェクト」の立ち上げ
“育休から復帰して久々に仕事に戻ったら、浦島太郎状態だった”
“子どもの体調で休みがちな中、会社に期待されているのか不安”
こうした声を社長が拾いあげ、 A社では「育休復帰者支援プロジェクト」がスタート。
プロジェクトメンバーは部署・職種をまたがった育休復帰経験者で構成され、育休者間で情報交換するSNSの導入などに取り組みました。
育休復帰前説明会は、次の4月に職場復帰が決まった育休中の社員に向けて実施。
もともと復帰後1ヶ月以内をめどに、復帰者本人・上司・人事で面談を行い、勤務方法や両立のポイントについて共有していましたが、「もっと前に知りたかった」という意見が多数あったことから、復帰直前の時期に説明会の場を設けることに。
地方支社とはWeb会議で中継し、全国の育休中社員が参加できるよう整えました。
赤ちゃんが会社にくる!準備は万全に。
育休者SNSで説明会について呼びかけたところ、なんと6割以上が参加を表明。
赤ちゃん連れでも安心して参加できるよう、プロジェクトメンバーは自身の育児経験をフルに活かし準備を進めます。
メイン会場となる会議室は、赤ちゃんが自由に動き回れるよう、椅子を片づけてブルーシートを設置。
後方にはオムツ替えや授乳スペースを作り、さらには少しでも落ち着いて説明会に参加できるよう、赤ちゃん向けのおもちゃやDVDも用意!万全です。
別途、ベビーカー置き場・休憩用の部屋も準備し、早めに来社して離乳食タイムを取っている参加者もいました。
開始時間が近づくにつれ、赤ちゃんと育休中社員が続々と集まります。同僚との久々の再会を喜びあう姿も見られました。
任意にも関わらず、育休中社員の上司も多数参加。
「今回が部下の初めての育休復帰で、制度含めてよく分からないことがたくさんあります。ぼくには子どもがいないので、生活についてイメージしづらい点も多い。だから説明会にも来てみました」
長年子育て支援に取り組んできたA社には、育休中社員の両立を現場部署でサポートしようという風土があるそう。社員への理解を深め、共によりよく働こうとする会社の雰囲気が感じられました。
説明会スタート!
最終的に32名の育休中社員、その上司、お子さんが集まりました。
はじめに司会者から、お子さんの機嫌や体調を優先し、自由に場を抜けて問題ないことを伝えます。
続いて社長から、復帰への期待を直接参加者に伝えた後、いよいよ説明会がスタート。
大きく以下の3つの内容で行われました。
①子育て支援制度について人事から説明
②育休復帰社員よるパネルディスカッション
③直属上司との面談
①会社の子育て支援制度について人事から説明
復帰が決まったら行う会社への手続きや、復帰後の勤務方法、子どもの体調不良時等に利用できる制度等について、人事から説明。
復帰準備をする中で、見落としがちだったり不安になるポイントを、これまでの復帰者の経験や知恵を踏まえて、フォローしていきます。
部署側もスムーズに対応していけるよう、上司に対してもポイントを共有。
育休中社員へは、両立の鍵は周りとの信頼関係であることも伝えます。
②パネルディスカッション
前年度に育休から復帰し、職種や子どもの状況が異なる社員が、1日のスケジュールや両立のポイントを話した後、参加者からの質問に答えました。
“苦労したことは、離乳食を食べない時期があったこと。保育園の先生とよくコミュニケーションを取って乗り切りました。保育士さんは、親が知らない子どもの様子もよく見ていてくださっています。とても頼りになる存在です!”
“業務で日々気をつけていることは、1人で仕事をしないようにすること。自分の仕事の進捗状況を、メールで定期的にメンバーに共有したり、外出は2人以上、できれば上司と行くようにしています。”
“システム障害の対応をすることもあ
フリータイムでは、パネルディスカッションに立った社員と参加者とがざっくばらんに話したり、地方支社とweb会議越しの質疑応答などを行いました。
③上司面談
復帰後の担当業務や、子どもがいる状況を上司に目で見て知ってもらうという目的で実施。
面談場所を準備していましたが、上司が自然と育休中社員のところへ向かい、ブルーシートに座って面談している場面が多く見られました。
面談中はプロジェクトメンバーがお子さんを預かり、少しでも落ち着いて話せるよう配慮していました。
プロジェクトリーダーへのインタビュー
こうして、育休復帰前説明会は盛況で終了。
育休復帰者支援プロジェクトを率いた人事部門のマネージャーさんにお話を伺いました。
— 初めての説明会、やってみてどうでしたか?
1番の気付きは説明会が思った以上に育休者に求められていたこと。対象者の8割という想像以上の参加率で、会社や仕事に対する期待が大きいと感じました。
説明会のあの活気を、ほかの社員にも見てもらいたいくらい。
両立への気持ちがなければ、説明会に参加しないですものね。改めて、両立の一番大変な時期を乗り越えて活躍してもらいたいという思いが湧きました。
また、各プロジェクトメンバーが担当業務(システム運用・
赤ちゃんが座る大きなブルーシートをみんなで拭いて消毒したこ
子育て支援の会社の文化を作るのは経験者が現場で活躍してこそ。
— 子育て支援を行う企業は数多くある中、A社の取り組みの特徴は何ですか?
「充実した制度」と「現場部署での受け入れの柔軟性」です。制度は、法定を上回る基準を設けており、特に以下の点は手厚いです。
1.育児短時間勤務制度の選択肢の幅(5時間・6時間・7時間)
2.育児短時間勤務制度の利用期間(小学校6学年終了後の最初の4月15日まで)
3.育児理由での失効年休利用可能
(育児目的の利用を認めていない会社が多い。“チャイルドホリデー”と名付け使いやすさをアピールし、男性社員の利用が多いのが特徴)
4.フレックス・テレワークなどの制度
(テレワークは、週4日まで利用可能、中断可能、3時間〜利用可能)
制度自体は珍しくないですが、利用方法に柔軟性があること、会社全体で利用促進していること、育児理由での制度利用が社内のスタンダードになっていることが特徴です。
またこれらの取組を、現場部門が受け入れて柔軟に活用できているところもポイント。
基本的に現場部門は、時短勤務者や育児をしている社員に理解を示し、テレワークや業務調整などを行って、両立をサポートしようとする風土があります。
これは長年、制度の周知や細かな運用変更に取組んできた成果だと感じます。
— このプロジェクトにかける思いとは
仕事と育児の両立は、仕事に対する思いや、やりがいが無ければなかなか続かない。だから、両立する方の仕事のモチベーションや効率は高いのだと思います。
今後は介護や育児、その他の活動をしながら働くという社員が増えていくでしょう。
両立支援やフレキシブルな働き方のサポートは、会社にメリットを与える経営戦略だと思っています。
私も子どもがいますので、会社の両立支援がより進んで、周りに仲間ができ、苦労を共有して、仕事のエネルギーにしていくのは単純に嬉しい事でもあります。
育児中社員から「ママ友の話を聞いていると、うちの会社は充実していて恵まれているなーと感じます」と、言われることが増えていますが、とっても嬉しいですね。顔には出しませんが 笑
— 今後やりたいことは?
育休中にお仕事をする、という形を作ってみたいです。
今は、育休中社員と現場の社員の気持ちが、少し離れているように思います。
現場側にはもちろん、復帰を待つ気持ちはあるのですが、通常の業務で忙しく育休中社員のフォローにまで手が回らないのでしょう。1年以上、完全に仕事から離れてしまうのでは、それも当然だと思います。
育休中でも仕事とつながっていたい、と考える方もいるでしょうし、育休中の方の力を借りたいと思う現場もあるのでは。
「育休中は育児に専念して。1年後に待ってるよ」なんていう形から、「育休中の○○さんに頼もうか」という形に変わっていくのかもしれないと思っています。
「多様な働き方の支援」は、企業の魅力
子育てや介護といった「生活」と「仕事」を両立することは、どちらかだけにアクセルを踏むわけにはいかず、日々の微調整が必須です。子どもの病気で仕事を休むことが続くと、「どうして両立なんて選んだのだろうか?」と疑問になる時さえあります。
両立は大変なこともある。
どう生きたいかは、個人それぞれである。
これらを受け止めサポートしてくれる環境で働けることは、社員にとって大きな安心感につながると思います。
先日のイベントを分かりやすくかつ詳細にまとめていただいており感動しました!
てか橋本さん、イラストレーターだったんですね!
ほっこりするイラスト、素敵です!!
知り合いがイラストに出てきていてニヤリとしてしまいました。
このような形にまとめて頂きありがとうございます!!