インタビュー

揺らぎも凹凸も愛してる。『自分婚』をしたから手に入れたもの

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私にとって私は、

世界でいちばん大切な人。

ウェディングドレスに身を包み、満面の笑みを浮かべる女性。

名前は花岡 沙奈恵さん。

今年の4月、花岡さんは都内のレストランで結婚式を挙げました。

大切な人たちに囲まれて色とりどりのブーケを嬉しそうに抱きしめる姿は、誰の目から見ても、人生でいちばん輝かしい日を迎えた女性です。

しかし、新郎の姿がどこにも見当たりません。

彼女が結婚相手に選んだのは「自分自身」だったのです。

 

花岡沙奈恵(はなおか さなえ)

学校を卒業後、幼稚園に就職するが2年で退職。その後、アートセラピーに出会い、自分を大切にする生き方を考えるようになる。現在はアトリエはなうたを主宰。2018年4月に「自分婚式」を挙げる。

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「生きてておめでとう」を分かち合う日

『自分婚式』の始まりは、新婦の入場からスタート。参列者の温かい拍手に包まれながら、白いドレスの花岡さんが姿を見せました。

花岡:自分婚式をしよう!って決めた時、実はちょっとだけ怖気づいたんです。人と違うことをして後ろ指を指されるんじゃないかと思ったし、なるべく目立たないようにやりたい……て思っていたくらい。

花岡さんは、自分自身と結婚しようと決めた日から挙式のプランを練り始めました。

自分と結婚したい同志を集めて、ちょっとしたホームパーティをやろう──当初はそう思っていたけれど「自分が本当にやりたい結婚式」を突き詰めて考えていくうちに、このような形に辿り着いたのです。

花岡:自分はどんな結婚式をしたい?そう考えていくうちに、私は本格的なウェディングパーティーをやりたい!と気づきました。
会場、ドレス、料理……すべて用意して、きちんとした形で自分婚式をやりたい。今思えば結婚式を挙げるまでの準備期間も、自分と向き合うための大切な時間だったんです。
美容室に行った時に、たまたま可愛いレストランを見つけて。ここで式を挙げたい、と思ってお店の人に話してみたら、自分婚式に興味を持ってくれました。「え?なにそれ?新しいですね!」って。
言葉にして人に話していくことで、自分の頭の中にあった世界がどんどん現実に近づいていくのが面白かったなあ。

花岡:式では何か特別なことをしたわけではありません。その時の自分の感性、やりたいこと、話したいことを大切にしたいなと思っていたから。その時はたまたま歌いたい気分だったんですよね(笑)。だから、みんなの前で歌を歌いました。

自分婚式を思い立った当初は、共感してくれる人たちだけを招待しようと考えていた花岡さん。しかし、当日は親しい友人たちだけに限らず、縁のある様々な人が集いました。

花岡:私の感覚を分かってくれるから招待するのではなくて、私が大切にしたい人たちと、大切な時間を共有したかったんです。
参列者には「一人一輪ずつ好きなお花を持ってきてください」と事前にお願いしていました。そのお花を一輪ずつ受け取って、素敵なブーケができました。大好きな人たちがお花を持って並んでる様子が、すごく可愛かった……!
そして、私からも一人一人をイメージして選んだお花をプレゼントしました。
自分婚式はみんなと「おめでとう」を分かち合う日でした。みんながいるから私も生きていられる。だから「今日まで生きてておめでとう!」を共有したかったんです。

自分を大切にするのは、小さい頃から苦手だった。

花岡:自分と結婚しました!と言うとね、すごく自分のことが好きな人……というイメージがあるかもしれないけれど、本当は、自分のことを大切にするのがとても苦手だったんです。
私は3姉妹の長女で、小さい頃から大人に甘えられない子どもでした。自分の気持ちよりも、まわりの状況を見て自分の役割ばかり考えていたんです。
本当は我慢していたこと、親に認めてもらいたかったことに気づいたのは、大人になってからでした。

高校を卒業した後、花岡さんは長野県の実家を出て上京しました。子どもが好きだったので幼稚園の先生になったけれど、働く中で仕事に違和感を覚え、新しい道を探すために退職。

その後は自分らしく生きる道を模索して、起業塾に通いました。そこで得た繋がりから、手紙を書くワークショップの企画開催に携わったり、アートセラピーの勉強を始めたり。新しい活動は、彼女が変化していくきっかけとなりました。

花岡:「あなたは小さい頃から我慢していたのね。大人に甘えられなかったのね」
アートセラピーの先生が、自分の中にあるわだかまりに気づかせてくれたんです。
実家を出て一人で暮らしていたけれど、仕事も恋人関係もなぜかうまくいかなくて……。なんで私はこんなに頑張ってるのに、いつもうまくいかないんだろう?その問題の根源にあったのは、小さい頃から自分の中にあったわだかまりだったんです。

お母さん、「大好き」って言って

小さな頃から作文や絵を描いて表現することが好きだった彼女は、心から好きなことを仕事に繋げられないかと思い、アートセラピーの世界に飛び込みます。

自分の内面と向き合い、掘り下げる作業は自分を大切にする方法の模索でもあり、彼女が幼少期の自分を救うための一つの手段だったのかもしれません。

そして26歳の夏、花岡さんはずっとできなかったことを実現しました。

花岡:両親に手紙を書いたんです。小さい頃に我慢していたこと。両親の喧嘩を見るのが嫌だったことをありのままに伝えたんです。でも文末には「大好きだよ」と書きました。両親のことが一番大好きだったからこそ、頑張ってしまった自分がいたのだと思います。
両親からの返事を受け取ったのは、翌月の自分の誕生日のタイミング。お母さんは私の手紙を読んでちょっとショックを受けたようです。お父さんはあまりその話題には触れていなかったけど。自分の気持ちを伝えたと同時に、親の気持ちも知ることができて良かった。
この時、やっと一歩前進できました。

しかし、2年後に再び母親と衝突する出来事がありました。人生最大の喧嘩であり遅れてやってきた反抗期だったのかもしれない、と当時を振り返ります。

花岡:きっかけはとても些細なことだったんですけど、昔から重ねてきた我慢が爆発してしまったんだと思います。縁を切っても良い!というくらいの勢いでぶつかっていきました。もう家族に依存しなくても生きていけるという自信がついていたのかも。

自分の気持ちに決着をつけるため、彼女は受話器を取りました。たとえ電話越しでも、母親に伝えたいことがあったのです。

花岡:「お母さんに『大好き』って言ってほしい」と、泣きながら訴えました。小さい頃から欲しかった言葉でした。でも、母は受話器越しに「それはできない」と言ったんです。落胆した私は「嘘でもいいから言ってよ!」憤慨したのですが、母には母なりの考え方があったようです。
あなたのすごく好きなところもあるけど、全部が好きなわけじゃない。だから、大好きとは言えない
母には母の考え方があって、彼女なりの愛し方があるんだ。そのことに気づいた時、自分の中に長く残っていたわだかまりが溶け始めました。
私が考える愛情と、母の考える愛情は違った。母と私は違う人間同士だから、それは仕方のないことだったんです。そう気づいてから、親に対して執着する気持ちがなくなったんです。今は、母のことを「可愛い人だな」って思います(笑)。一人の大人として、母と向き合えるようになりました。

Facebookで「自分と結婚しました」と報告

花岡さんは、母親との関係の他にも、恋愛関係でも苦しさを感じる場面が多かったそうです。葛藤の種は、自分の欠けた部分を相手で満たそうとしてしまうこと。

誰かに穴を埋めてもらうのではなく、自分で自分を幸せにできる生き方をしたい──そんな思いが、形になりました。

花岡:ある日、久しぶりに朝からゆっくりとお風呂に入っていたんです。たまたま薔薇の花びらがあったので、お湯に浮かべてバラ風呂にして、好きな音楽をかけて……。その時、自分の中の女性的な感性がものすごく満たされるのを感じました。これが幸せなんだ〜!って涙が出てきたんです。
これまでは将来のことを見通してちゃんと“考える”ことを優先して、今を“感じる”ことをついつい後回しにしがちだったんです。だから “感じる”という女性的な性質を大切にできたことに、ものすごく幸せを覚えたのだと思います。
幸せな時間を充分に味わい、お風呂から上がったあと。
「どうしたら、ずっと、こんな風に自分を幸せにし続けられるんだろう?」と、考えました。今度は、“考える”という男性的な性質がフル回転です。
そして、閃いたんです。よし!今日、自分と結婚しよう!って。
長く付き合っていた彼女を幸せにしたい、と強く願い、結婚の決意を固める男性の気持ちってこんな感じなのかなーって思いました(笑)
アートセラピーを学ぶ中で、自分の中にある男性っぽいところ、女性っぽいところを絵で描き表したこともあったのですが、まさにその「二人」が結婚したというイメージです。

自分の中に存在する女性的な性質と男性的な性質が手をつなぎ、一緒になること。

お互いが支え合い良い関係になること。

つまり、自分をいちばん大切にすること。

それが、花岡さんの考える「自分と結婚すること」でした。

花岡:これまでにも、アートセラピーや手紙のワークショップを通して自分を大切にする練習はたくさんしてきたけど、今回は本気度が違いました(笑)。まず最初に、Facebookでみんなに向けて「自分と結婚しました」と報告したんです。斬新な報告に友人たちは驚きながらも祝福してくれました。

そして、結婚報告から3ヶ月後。

花岡さんは自分自身との結婚式を挙げました。

自分と結婚したことで広がった視界

華やかな挙式を終え、彼女の心は、ゆるやかに変化を続けています。

花岡:自分と結婚しようと決めた時「私は1人でも幸せになれる!自分で自分を幸せにする!」って意気込んでいたんですが、誰かと共に生きることも私の幸せには不可欠だと気づいたんです。結局私は、人といるのが好きなので、ずっと一匹狼みたいな生き方は無理です(笑)。
自分一人で進んでいきたい自分もいれば、誰かと一緒にいて心地良い自分もいる。そんな気持ちの凸凹も含めて、自分を大切にしたいです。
そしてこれは不思議なことなんですが、自分婚をしたことによって、誰かと生きる未来をリアルに考えられるようになってきました。今後、自分にぴったりの「しあわせなかぞく」を見つけていけたらいいなって思うようになれたんです。
自分と結婚したことは、誰かと一緒に生きるために必要なステップだったのかもしれませんね。

現在、花岡さんはアトリエ「はなうた」を主宰しています。アトリエに通う生徒からは「はなちゃん」の愛称で親しまれています。

自分婚をしたからこそ掛けられる言葉、教えられることがきっとたくさんあるのでしょう。

花岡:自分婚をしてから、アトリエの活動に対する向き合い方にも変化が起こっています。
今までは 人に頼ることが苦手で、自分一人の力でやろうとすることが多かったけれど、これからは、みんなで力を合わせて、一人では出来ないことにも チャレンジしていきたいと思っています。
新しい活動を始めるためにクラウドファンディングにも挑戦し始めたところです。「自分」だけのフィールドから、もっともっと広い世界へ踏み出していきたいです。

本当の意味で自分を愛せるようになった花岡さんは、人を愛し、共に生きるという次のスタート地点に立ちました。

 

花岡さんの人生が作品のひとつとして展示されます

『かぞくって、なんだろう?展』

会期:2018.6.30日(土)〜7.7(土)10:00〜18:00

日曜休廊

入場料:無料

会場:TURNER GALLERY

東京都豊島区南長崎6-1-3 ターナー色彩株式会社 東京支店

http://turnergallery.net  

(都営地下鉄大江戸線 落合南長崎駅 A2出口より徒歩10分・西武池袋線 東長崎駅 南口より徒歩8分)

FB https://www.facebook.com/kazokuten/  

HP https://kazokuten.wordpress.com  

トークイベントも開催!

7月7日(土) 10:30 – 12:00

トークライブ【自分と結婚ってどんな感じ?~誰かと関係を持つ前のはじめのステップ~】花岡沙奈恵×はじはたあつこ

■参加費 無料 (カンパ歓迎)

■申込はFacebookページから

https://www.facebook.com/events/2055360191344078/

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